企業に入社するときには、さまざまな書類や資料を提出することになります。身元保証書というのも、入社時に提出する書類のひとつです。ただ、普段あまり書くことがないだけに、身元保証書や身元保証人についてはわからないことも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、身元保証人・身元保証書について、その基本的な情報や身元保証人の条件などについて解説します。
連帯保証人とは違う?身元保証人と身元保証書について
一般企業に就職するにあたっては、まず自分の身分をしっかり企業側に証明する必要があります。
書類選考や採用面接などでは、企業に自分をアピールするために、履歴書に偽りの経歴を書くといったことも理論的には可能です。もちろん、身分を偽ることは経歴詐称であり、露見すれば懲戒免職などの処分は免れませんが、書類選考や採用面接の段階では確認するのが難しいということも事実です。
企業にとっては、採用した後に経歴や身分の詐称が発覚すれば大きな痛手となります。そのため、入社の段階で、新しく入ってくる社員の経歴や身分が本当に正しいかどうか確かめる必要があります。身元保証書とは、そのために提出する書類です。
身元保証書には、本人の経歴や身分を保証してくれる身元保証人の名前を記載します。しかし、身元保証人というのは、単に本人の身分を保証してくれるだけの存在ではありません。
たとえば、賃貸契約を結ぶ際に必要な連帯保証人は、契約者本人が家賃を支払えなくなったとき、代わりに立て替えて家賃を支払う義務を負います。これと同じように、身元保証人には新しく入社した社員が会社に損害をもたらしたとき、その損害に対して賠償する責任があるのです。
つまり、入社時に提出する身元保証書には、本人の身分保証に加えて、有事の際の損害賠償という目的もあるということです。
ただし、連帯保証人と身元保証人では、責任の範囲が大きく異なります。
連帯保証人の場合、契約者本人がもたらした損害すべてを補填する責任があります。これは責任というより義務というべきで、たとえば契約者本人が100万円の損害を出したなら、連帯保証人は100万円全額を賠償しなければなりません。
これに対して、身元保証人には、本人がもたらした損害に対する賠償責任の範囲は限定されています。本人に重大な過失や故意があったとしても、雇い主は身元保証人に対して損害の100%の賠償を請求することはできないことになっています。
こうした責任の範囲が、連帯保証人と身元保証人の差異の顕著な点です。
誰でも良いわけではない?身元保証人になれる人の条件とは
身元保証人は誰でもなれるわけではありません。その社員によって会社が損害を被った場合、その損害を賠償するのが身元保証人の役割のひとつです。そのため、身元保証人は有事の際に賠償に応じられる資力のある人でなければなりません。つまり、きちんとした仕事に就いており、安定した収入を得ていることが身元保証人の第一条件です。
多くの場合、身元保証人には自分の親や配偶者を立てるのが一般的です。安定した収入があるならば、本人の身分を保証するという意味でも、親や配偶者は最適な身元保証人だといえます。
ただし、身元保証人の条件は、会社によって異なる場合があることには注意が必要です。たとえば、会社によっては本人と生計を同一にしている人を身元保証人に立てることができないとしていることもあります。そのため、そのような条件がある場合、親と同居している場合などは親を身元保証人にすることはできません。また、同様の理由で、配偶者を身元保証人に立てることもできなくなります。
一方、生計を同一にしていなかった場合でも、親が年金生活者であった場合は身元保証人にできないといった条件が設けられていることも珍しくありません。特に配偶者の場合は、別居や単身赴任などで生計を異にしていても、本人と配偶者は一心同体と見なされる傾向があるため、生計を異にしていることが条件の場合は配偶者を身元保証人にできないことが多いです。
両親以外を身元保証人の条件とする会社もあるなど、身元保証人の条件は入社する会社によって大きく異なります。ですから、まずは会社ごとに異なる条件をしっかり確認してから、身元保証人として誰を立てるのが最適か考えるようにしましょう。
解除も可能!身元保証人が負うべき責任
POINT!
- 身元保証人の責任範囲は、身元保証法という法律によって決められている
身元保証人に対して、連帯保証人のような十全の損害賠償を請求できないのも、身元保証法によって責任の範囲が決められているからです。
そもそも、個人が会社に対して与えた損害は、賃貸物件の滞納家賃のように、明確に金額で表すことが難しいものです。雇用者が会社に対してどのような損害を与えるのか予測するのも難しく、会社が被った巨額の損害を一個人である身元保証人にすべて背負わせるというのは理不尽でもあります。
したがって、もし雇用者が会社に損害を与えたとしても、身元保証人が損害の全額を賠償することは少ないとされているのです。
POINT!
- 身元保証法によって、身元保証人が責任を負わされる期間にも定めがある
つまり、身元保証人にも契約期間があるということです。
その契約期間は、特段の取り決めがない場合は3年、会社との間で期間を定める場合でも最長5年までと決められています。3年、または5年という期間が過ぎたら、契約の更新をしない限り身元保証人はその役割と責任を終えることになります。
要するに、身元保証人は一度なったら一生責任を負わなければならないわけではないということです。身元保証人の契約更新も可能ではありますが、雇用者本人が真面目に働いていれば、身元保証契約の更新を選ばない会社のほうが多いようです。
それだけではなく、身元保証人には契約期間中でも保証人としての立場を解除できる場合があります。
たとえば、身元保証契約の内容に変更が生じた場合、会社側は保証人に対して変更があった旨を通知しなければなりません。もし、その通知を怠っていた場合、身元保証人は契約を解除することができます。また、雇用者本人が犯罪を行った場合なども、身元保証人は解除権を行使して保証人であることから離脱することが可能です。
身元保証人に対してはしっかり誠意を示そう!
身元保証人は、自分の両親になってくれるよう依頼するのが最も一般的です。
ただし、両親に依頼する場合でも、身元保証人がどういうものであるか、しっかり説明しておくことは大切です。もし、自分が何らかの損害を会社に与えてしまった場合、その損害を補填するのは身元保証人に指定した自分の親になるかもしれません。身元保証人になった場合、どの程度の責任を負わねばならないのか、またどうすれば解除権を行使できるかなど、きちんと納得してもらったうえで依頼することが大切です。
特に身元保証人は連帯保証人と混同されがちでもあります。身元保証人と連帯保証人では、責任の範囲が大きく異なるため、両者の違いについてはなるべく詳しく説明しておいたほうが良いでしょう。このことは、両親を身元保証人に立てることができない場合でも同様です。
身元保証人は、成人していて収入が安定している人なら、兄弟や親戚、祖父母なども立てることができます。会社の指定する条件を満たしていれば、場合によっては友人に依頼することも可能です。このように、両親以外の人に依頼する場合も、やはり身元保証人の基本的な情報についてはしっかり説明しておくことが最大の誠意になります。
また、身元保証人は依頼したらそれで終わりということではありません。わざわざ責任を負ってまで身元保証人になってくれたわけですから、定期的に近況を報告することも忘れないようにしましょう。近況報告は単に誠意を示すという意味だけではなく、身元保証契約の更新や解除にとっても無関係ではありません。
たとえば、本人が転勤や異動などになった場合、身元保証人にもそうした情報を知る権利があります。もちろん、身元保証契約の変更があった場合、それを通知するのは会社側の義務ではありますが、本人からも定期的に近況を伝えておくことによって、身元保証人が有する解除権の行使などの決定がよりスムーズにできるようになるといった利点もあります。身元保証人になれば大きな責任を負うことにもなるので、依頼する人がいかなる関係性の人であったとしても、誠意を示して対応することが何よりです。
身元保証人が見つからないときの対処法
会社から示された身元保証人の条件によっては、両親や配偶者を身元保証人に指定できない場合もあります。また、依頼した人に断られることも考えられるため、書類の提出期限までに身元保証人を用意できないといったことも決して珍しくはありません。
もし、適格な身元保証人が見つけられない場合は、まず会社に相談しましょう。身元保証人の条件はあくまで会社側が独自に決めているものであるため、やむを得ない事情がある場合は相談することで条件を変更してもらえることもあります。書類の提出期限を延ばしてもらえる場合もあるので、身元保証人探しで苦戦しているときは、ひとまず会社側に相談してみるのが鉄則です。
それでも保証人を見つけられない場合は、身元保証人代行サービスを利用してみるという手もあります。
身元保証人代行サービスとは、何らかの事情があって保証人を立てられない人のための代行サービスです。一定の金額を支払うことによって、代行サービス会社が身元保証人を引き受けてくれます。身元保証人代行サービスを利用することで、適格な身元保証人を見つけられない場合でも十分に対応できるようになります。
ただし、一般的な保証人代行サービスは、賃貸物件契約時の連帯保証人代行や、日本人の保証人を必要とする外国人向けの代行サービスが主です。入社時の身元保証人代行サービスはやっていないという業者もあるので、利用する際は代行会社のサービス範囲をしっかり確認してから依頼する必要があります。
また、代行サービスの利用は有料となり、サービス料も業者によって千差万別です。サービス範囲だけではなく、サービスの内容や金額についてもきちんと確認することを忘れないようにしましょう。
双方に利益がある!身元保証書や身元保証人の意義
身元保証書や身元保証人は、これから会社と良好な関係を築いていくためにとても重要なものです。社員にとっては、身元保証人を立てることで自分の身分を証明できますし、会社にとっても身元保証書を提出させることで誠実な勤務を約束させることができます。身元保証人を探すのは大変なことでもありますが、困ったときは会社側ともしっかり相談して誠実に問題の対処にあたるようにしましょう。