転職や就職では、規模が大きな企業を目指す人が多い一方で、零細企業に興味を持つケースも見受けられます。これから後者を選択する可能性があるなら、代表的な特徴を把握しておくことが重要です。
そのうえで、個々の求人をしっかりチェックしなければなりません。本記事では零細企業がどのようなものか解説し、そこで働くメリットやデメリットも紹介します。
そもそも零細企業とは何を指すのか?
経営の規模によって、企業は
「大企業」「中小企業」「零細企業」の3種類に分けられます。
とはいえ、3つ目に関しては明確な定義が存在するわけではありません。報道などでもよく使われる言葉ですが、あくまでも通称にすぎず、一般的には
「小規模企業者」を指していることが多いです。
小規模企業者については、中小企業基本法で明確な定義が定められています。基本的には特に規模が小さな企業を指しますが、職種ごとに判断基準が違っているので注意しましょう。
判断基準として使われるのは従業員の数であり、製造業や建設業、運輸業などの場合は20人以下だと該当します。
一方、卸売業やサービス業、小売業に関しては、5人以下であることが条件です。少人数という点でベンチャー企業と混同されるケースもありますが、後者は経営のスタイルに着目して分類されるカテゴリとなっています。
こちらも明確な定義はありませんが、一般的に当てはまるのは、オリジナリティのある技術やアイデアを持って新事業を展開していく企業です。創業して間もない段階であることが多く、新興企業という意味で使われることも少なくありません。
これに対して小規模企業者は、経営のスタイルに関係はなく、あくまでも企業の規模によって分類されるカテゴリです。
現状の人数に焦点を当てた区分に過ぎず、成長によって中小企業や大企業に移行する可能性もあります。伝統的な事業を行う企業でも、斬新なビジネスに取り組むベンチャー企業でも、人数に関する条件を満たすなら該当するというわけです。
また、規模が小さいからといって、それを不満に感じて成長を希望しているとは限りません。人数が多ければ人件費が増えますし、少数精鋭のほうが融通を利かせやすい仕事もあります。
よって、自社のビジネスモデルとして、小規模であることが最適と考えているケースもあるでしょう。
日本国内における零細企業の割合は?
零細企業、すなわち小規模事業者は、国内における企業のうち、どの程度の割合を占めているのでしょうか。
中小企業庁の発表によると、2016年における中小企業と零細企業の合計は全体の99.7%です。そのうち零細企業の割合は84.9%で、2014年の調査でも85.1%という結果が出ています。
この調査結果から、国内企業のほとんどが零細企業だということがわかるでしょう。ちなみに、大企業の割合は全体の0.3%で、中小企業と零細企業に比べて圧倒的に少ない割合となっています。
零細企業に勤めるメリット3点
小規模という理由だけで、零細企業を転職先や就職先の候補から外すのは早計です。
大企業や中小企業とは異なる魅力があるので、それらを踏まえて判断する必要があります。以下に具体的なメリットを紹介するのでチェックしておきましょう。
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- 成長のチャンスに恵まれる
- 人数が少ない分だけ担当する仕事の種類が多く、成長のチャンスを頻繁に得られます。経験をたくさん積むことで知識やスキルが増えていき、自分の市場価値をスムーズに高めることも可能です。
積極的に仕事を続けていると、さまざまな職種に通用する素養を磨けます。たとえば、営業職の人数が少ない企業なら、技術職の従業員が取引先と直接やり取りするケースも多いでしょう。
この場合、コミュニケーション能力や相手のニーズをくみ取る力などが育まれます。また、1人で複数の業務を担当するにあたり、臨機応変な対応力も身につきやすいです。
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- 意見を上層部に伝えやすい
- 上層部に対して進言したいことがあっても、組織の規模が大きいと難しいのが一般的です。そもそも上層部と顔を合わせる機会がなく、伝達の手段が用意されていないこともあるでしょう。
組織が多段の階層構造になっていると、自分の所属する階層内でしか意見を述べられないケースもあります。一方、小規模な組織では、上層部が同じフロアで机を並べている光景も珍しくありません。
ダイレクトに自分のアイデアなどを伝えられますし、反応を口頭でのやり取りで確かめることも可能です。直接アドバイスを受けて、自分の業務に活かせるというメリットもあります。
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- 役職に就ける可能性が大きい
- 役職者になりやすいこともメリットの一つです。企業が小規模ということは、役職を競い合うライバルが少ないことも意味します。
たとえば、課長や部長の候補者が自分だけなら、それらの枠が空くと自動的に昇進することになるでしょう。大企業なら何年も働かないと就けない役職でも、入社後の働き次第では短期間で任命されるケースも見受けられます。
事業の発展によって人数が増えたとしても、小規模な時期から貢献した分だけ存在感も大きく、出世のレースでは有利になりやすいです。
零細企業に勤めるデメリット3点
零細企業への入社を検討するなら、デメリットも十分に把握しておくことが大事です。
応募の判断に役立つだけでなく、働きやすくするための対策を立てやすくなるでしょう。以下に紹介するのは特に注意が必要な3点です。
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- 低収入の傾向がある
- 収入に関しては、規模が大きなところより低いという傾向が見られます。国税庁が実施した令和3年分の民間給与実態統計調査によると、従業員が5000人以上いる事業所は年間の平均給与が515万円でした。
これに対して、従業員が10人に満たない事業所では358万円という結果が出ています。したがって、自分の希望する生活水準によっては、夫婦共働きや副業なども視野に入れる必要があるでしょう。
また、早期の昇進や昇給を目指して、意欲的に業務をこなすことも有効な対策です。目的意識を持って働くことが収入アップにつながります。
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- 教育体制が不十分である
- あまり教育体制が充実していない点にも注意が必要です。少人数で仕事をこなしているため、研修などに時間を割きにくいという実情があります。
現場で知識やスキルを習得する実践主義が一般的です。そのため、業務上の課題に直面すると、最初のうちは解決方法が分からずに悩んでしまう人もいます。
このリスクを小さくするため、上司や先輩社員とのチームワークを良くすることが大切です。こまめに業務内容を報告するなど、活発なコミュニケーションを心がけましょう。状況に合ったフォローや指導を受けられる可能性が上がります。
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- 福利厚生が整備されていない
- 家族との行事用に特別な休暇を付与したり、従業員用の保養施設を用意したりするなど、世の中にはさまざまな福利厚生が存在します。
しかし、規模が小さくて資金力に余裕もない企業では、そのような福利厚生の整備にまで手が回りません。社会保険のように、法律で義務化された内容だけに限定しているケースもあります。
よって、プライベートに関しては、勤務先に支援してもらえる部分は基本的に少ないです。自分で会社生活の見通しを立て、うまくワークライフバランスを整えることがポイントになります。
零細企業の従業員に適している人とは
零細企業では、他の規模の企業とは異なるスタンスで働くことになります。
どのような人に向いているのか解説するので、自分が従業員として適切かイメージしてみましょう。
指揮系統が細かく設定されておらず、各自に裁量を持たせているのが一般的です。上司の指示を待たずに動けるタイプだと、現場でのやり取りだけで判断し、次々と業務を遂行できるでしょう。
ただし、裁量には責任が伴うことも忘れてはいけません。ミスが発生した場合、その大小にかかわらず、自分で対処することが基本となっています。よって、最後まで仕事を完遂する意志の強さも欠かせません。
責任感を持って主体的に働けるなら、活躍できる見込みは十分にあります。
採用されて働き始めると、職場で定められているルールや制度に従うことは必須です。
しかし、これから発展していく小さな企業では、それらが詳細に決まっていないケースもよくあります。成長に合わせて次第に設定されることが多く、その際に従業員の主張を取り入れることも珍しくありません。
よって、積極的に要望を出していけば、快適な職場づくりの提案として反映される見込みもあるでしょう。人数が少ないうちは、その分だけ各自の発言が重視されやすいので、職場を自分好みの環境に近づけたい人には魅力的です。
経営者との距離が短い環境で働くことになります。どのように事業を営んでいるのか間近で見られるので、経営のノウハウを身につけたい人にはうってつけです。
実践的なマネジメントが近くで行われ、その影響を従業員という立場で実感できます。つまり、マネジメントの手法について、実施と結果がセットになった事例を経験的に学べるのです。
もちろん成功だけでなく、失敗したという事例もあるでしょう。将来的に起業するつもりなら、失敗のケースを知っておくことも役に立ちます。特に同じ業界で独立する場合、経営をスタートしてから活かせる部分が多いです。
零細企業の求人チェック!確認が必要なポイントは?
零細企業の求人をチェックする際、特に意識したほうが良いポイントを紹介します。転職や就職を検討するなら、以下の2点を踏まえて慎重に確認しましょう。
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- 勤務制度
- 前述のように、従業員に裁量を持たせるところが多く、勤務制度にも取り入れているケースが少なくありません。いわゆる裁量労働制を採用している場合、どれだけ長く働き続けても、みなし労働時間に基づいて賃金が支払われます。
成果さえ出していれば、早々に仕事を切り上げても大丈夫です。1人あたりの業務や役割が多いため、実際の労働時間に対する報酬を高くするには、できるだけ仕事を円滑に進める必要があります。
それが難しいと感じるなら、一般的な固定時間制やフレックスタイム制のところを選ぶのが得策です。
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- 賃金以外の収入
- 現職の企業で家族手当や住宅手当などを受け取っている場合、それらが当然の存在と思ってはいけません。福利厚生が未整備の転職先では、手当がまったく支給されないこともあるからです。
また、退職金の支払いも企業の義務ではないため、制度を導入していないケースがよくあります。支払いが必須になるのは、あくまでも制度として運用しているところだけです。
賃金の項目を見て十分だと思っても、このような点を把握していないと、想定よりトータルの収入がダウンしがちです。したがって、福利厚生や退職金など、収入に関わる制度は入念にチェックしておきましょう。
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- 教育体制
- 大企業であれば新入社員向けに充実した研修などを用意していますが、零細企業に同様の教育体制は望めません。講習やセミナーだけでなく、業務のマニュアルも整備されていない場合があり、不十分な教育がトラブルの原因になる恐れもあります。
零細企業への就職を決める前に、どのような教育体制が用意されているのかをよく確かめておきましょう。
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- 社会保険
- 社会保険に加入できるかどうかも、零細企業の求人をチェックするうえでぜひ見ておきたいポイントの一つです。
法人の事業者はすべて社会保険への加入が義務付けられており、その従業員も条件を満たせば加入できます。しかし、雇い主が一定の条件を満たす個人事業主の場合、加入できないことがあるので注意が必要です。
零細企業にはメリットもあればデメリットもある
零細企業では幅広い業務を担当でき、企業の成り立ちを理解するうえで有効です。将来的に起業などを考えている人は、零細企業に勤めて経験を積んでおくのもよいでしょう。
一方、待遇面や給与面ではどうしても大企業に劣るため、就職後に不満を抱えないよう、求人の内容をよく確かめておく必要があります。
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