「家族を養う」という表現をよく耳にしますが、配偶者や子供を「養う」ことを「扶養」といい、これを受けている人を「被扶養者」と呼びます。
ただし、配偶者や子供が常に被扶養者として扱われるわけではありません。配偶者や子供は扶養者かどうかということは租税、健康保険、厚生年金に関して影響が生じます。
本記事では被扶養者について解説します。また、履歴書上の被扶養者はどう捉えるべきかという点についても説明します。
扶養の種類と被扶養者
「被扶養者」とは扶養される人を指します。「扶養」とは何かが分かれば、被扶養者とはどのような人か理解できるようになるため、まず扶養について説明します。
扶養とは経済的に自立して生活できない人を支援することです。「家族を養う」という表現がありますが、それが一般的には扶養にあたり、家族を養っている人は扶養者、また、養われている家族は被扶養者です。
扶養には家族が行う「私的扶養」の他に、国や地方自治体が行う「公的扶養」があります。たとえば、働いていない配偶者や子供の生活を他の家族が経済的に支えるのは私的扶養であるのに対し、所得の少ない人に対する生活保護や、障害を負っている人に対する障害者扶養は公的扶養にあたります。
それぞれのケースで扶養を受けている人を被扶養者と呼びますが、私的扶養を受けている人を被扶養者と捉えることが一般的です。
たとえば、会社員である夫、専業主婦の妻、小学生の子供という家族構成では、妻や子供が被扶養者になり、夫は扶養者になります。また、扶養されている家族、つまり、配偶者や子供を「扶養家族」と呼びます。
ただ、実際に扶養されている家族であっても、税制上または社会保険制度上、必ず被扶養者として扱われるとは限りません。次の段落ではこの点について説明します。
租税や社会保険(健康保険や厚生年金保険)の被扶養者とは?
この段落では、租税や社会保険(健康保険や厚生年金保険)における被扶養者の定義について説明します。
税制上の被扶養者
配偶者を扶養している人は「配偶者控除」や「配偶者特別控除」を、配偶者以外の家族を扶養している人は「扶養控除」を受けることができます。
そうすると課税の対象となる収入が減るため、所得税や住民税も減ります。ただし、被扶養者として扱われるためには、配偶者や子供であるだけでは不十分で、その人が以下の要件を満たすことが必要です。
配偶者以外の家族を扶養する場合
●6親等内の血族および3親等内の姻族であること
血族とは血のつながりのある家族を指します。たとえば両親は1親等、祖父母は2親等、叔父・叔母は3親等、叔父・叔母の子供(いとこ)は4親等、いとこの子供は5親等、いとこの孫は6親等の血族です。
これに対し、血がつながっておらず、結婚によって生じる親族関係を姻族といいます。たとえば、配偶者の父母は1親等、配偶者の祖父母は2親等、配偶者の叔父・叔母は3親等の姻族です。
なお、親族でなくても、都道府県知事から養育を委託された子供や、市町村長から養護を委任された老人を被扶養者に含めることができます。
●16歳以上であること
●扶養者(納税者)と生計を共にしていること
なお、同居している必要はなく、以下の親族は別居していても扶養者と生計を共にしているとみなされます。
・親元を離れ生活をしている学生
・高齢の両親
・扶養者が単身赴任で別居している場合の親族
●年間の収入が48万円以下(給与所得のみの場合は年間の給与収入が103万円以下)であること
なお、所得税と住民税で扱いには以下の点で異なっていますが、基本的な違いはありません。
・扶養状況の判断時期
所得税はその年の扶養状況により、他方、住民税は前年の扶養状況により判断します。
・扶養控除額
控除額は所得税より住民税の方が低く設定されています。
配偶者を扶養する場合
配偶者も以下の要件を満たす場合には被扶養者となり、扶養者は「配偶者控除」や「配偶者特別控除」を受けることが可能です。
●納税者(扶養する配偶者)と生計を共にしていること
●1年間の所得額が48万円以下(給与のみの場合は、年収103万円以下)であること
なお、1年間の所得額が48万円を超えるものの、133万円以下である場合は「配偶者特別控除」を受けることができます。
●納税者が青色申告をする場合は、事業専従者として、1年間に1度も給与の支払いを受けていないこと
●納税者が白色申告をする場合は、事業専従者ではないこと
健康保険上の被扶養者とは
すでに説明したように、租税に関し、すべての扶養家族が被扶養者として扱われるわけではありませんが、同様のことは社会保険にもあてはまります。
ただし、租税上の被扶養者と社会保険上の被扶養者は完全に同じではありません。以下では社会保険に関し、家族が被扶養者として認定されるための要件について説明します。
すべての国民は公的医療保険に加入することが法律で義務付けられています(国民皆保険)。そのため、会社員であれば健康保険に加入しなければなりませんが、この健康保険は被扶養者にも適用されるため、被扶養者は個別に加入する必要がありません。
つまり、世帯主である会社員が健康保険に加入すると、その1人分の保険料で扶養家族全員をカバーすることができます。
ただし、家族の全員が被扶養者として認定されるわけではなく、以下の要件を満たすことが必要です。なお、各保険事業者によって扱いが異なる場合があります。
●3親等内の親族であること
租税上の親族には6親等内の血族が含まれていることと比べ、社会保険上の親族は大幅に制限されています。
これに対し、年齢に関する要件(16歳以上であること)は設けられていません。なお、配偶者に親等はありませんが、0親等として捉えることができます。
したがって、配偶者は3親等内の親族に含まれます。配偶者(内縁を含む)や、子(養子を含む)、孫、ひ孫、父母、祖父母、曽祖父母、兄弟姉妹といった直系親族(血族)は扶養者と同居していなくても被扶養者として認定されます。
これに対し、義理の父母や義理の兄弟姉妹といった血のつながりのない親族(姻族)は、同居していなければ被扶養者として認定されません。内縁関係の相手方やその3親等内の親族も被扶養者に含めることができます。
●後期高齢者でないこと
75歳以上の人、または、65歳〜74歳で一定の障がいを持つ人は後期高齢者医療制度に加入するため、被扶養者として認定されません。
●国内で住んでいること
ただし、海外留学をしているという場合やその他の特別な事情がある場合には例外が認められます。
●年間の収入が130万円未満であること
配偶者の年間の収入が130万円を超える場合、配偶者は自分で社会保険に加入しなければなりません。
●60歳以上の家族や59歳以下の障害年金受給者であれば、年間の収入が180万円を越えていないこと
●扶養される人の年収は扶養者(健康保険加入者)の年収の2分の1未満であること
●扶養しなければならない理由があること
たとえば、扶養される人には優先扶養義務者(配偶者、兄弟姉妹など)がいる場合、被扶養者として認定されません。
ただし、優先扶養義務者がいる場合でも、優先扶養義務者に経済力がないような場合は、被扶養者として認定されます。
●健康保険に加入している人(扶養者)は扶養される人の生活費を最も多く負担していること
他に生活費を支援している人がいて、その人の支援が最も多い場合、支援されている人は被扶養者として認定されません。
●健康保険に加入している人(扶養者)に継続的な経済力があること
自営業者の被扶養者について
会社勤めしている人が加入する健康保険と異なり、自営業者が加入する国民健康保険には、家族を被扶養者とする制度はありません。そのため、自営業者の家族は個別に国民健康保険に加入する必要があります。
厚生年金保険上の被扶養者(配偶者)
健康保険と同じように、厚生年金保険でも被扶養者の認定が問題になりますが、以下ではこの問題について説明します。
国内に住んでいる20歳以上60歳未満の人は国民年金保険への加入が義務付けられていますが、会社員や公務員は、さらに厚生年金に加入しなければなりません。
会社員や公務員に扶養されている配偶者が被扶養者として認定される場合、配偶者は保険料の支払いを免除されますが、そのためには以下の要件を満たすことが必要です。
1) 国内で住んでいること
2) 扶養者と生計を共にしていること
3) 年間の収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)であり、かつ、収入が扶養者の収入の半分未満であること
国外への転居、離婚、または収入が130万円を超えたため、配偶者が被扶養者でなくなったときは、自ら国民年金に加入し、保険料を支払う義務が発生します。
被扶養者としての資格を持っているときであれ、自ら国民年金に加入し、保険料を納めれば、年金の受取額が多くなります。
なお、厚生年金の制度上、被扶養者は第3号被保険者と、また、扶養者である会社員や公務員は第2号被保険者と呼ばれます。
履歴書上の被扶養者とは
履歴書には家族欄が設けられていますが、それは社会保険(健康保険や国民年金保険)への加入や家族手当の必要性についてチェックする必要があるためです。
つまり、履歴書では社会保険上の被扶養者が問題になります。履歴書の家族欄に記入する際は以下の点に注意してください。
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- 扶養家族
- 扶養家族とは履歴書を作成する人が扶養している家族を指します。ただし、配偶者は除きます。そのため、履歴書作成者に配偶者と小学生の子供が1人いるような場合は、扶養家族は1人です。
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- 配偶者
- 配偶者とは結婚相手のことです。そのため、履歴書を作成する人が結婚しているときは、配偶者欄の「有」に〇をつけます。
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- 配偶者の扶養義務
- 配偶者がいても、同人が働いていて、自ら社会保険に加入している場合は、配偶者の扶養義務の欄は「無」に〇をつけます。働いても年収が130万円未満で、もう一方の配偶者の被扶養者となっている場合は、「有」に〇をつけます。
なお、結婚する意思があっても、「婚姻届け」を市役所または町村役場に提出しなければ、結婚は有効に成立しません。
しかし、結婚する意思を持って長期間、同居しているときは、「事実婚」として認められる場合があります。「事実婚」は「内縁」とも呼ばれますが、社会保険上は結婚と同じように扱われます。
そのため、「事実婚」の相手を扶養しているときは、扶養義務欄の「有」に〇をつけます。他方、結婚は有効に成立していないため、配偶者欄は「無」に○をつけます。
配偶者や子供がすべて被扶養者とは限らない
被扶養者とは扶養されている人です。ただし、租税や社会保険(健康保険や厚生年金保険)に関しては、実際に扶養されていても、被扶養者として扱われない場合がありますので注意してください。
たとえば、所得税や住民税に関し、被扶養者と認定されるのは16歳以上の家族に限られます。16歳以上であれば、いとこ(4親等)も被扶養者になれますが、健康保険上はなれません。
また、自営業者で国民健康保険に加入している場合は、家族を被扶養者とすることはできません。なお、履歴書の家族欄にある被扶養者とは社会保険上の被扶養者です。
そのため、租税の場合とは異なり、結婚していないパートナーでも被扶養者に含めることができます。就職活動や履歴書作成時、就職後の入社手続きなどで必要となる知識ですので、ぜひ参考にしてください。