製造業に関する用語で「OEM」という言葉を聞いたことはないでしょうか。OEMは日本の製造業を支えてきた方式のひとつです。
製造業への転職を目指しているなら、詳しく理解しておきたいところです。
また、OEMのメリットとデメリットもしっかり把握しておきましょう。この記事では、OEMの意味やメリット、デメリットなどを解説していきます。
製造業において、OEMは一般化している方式です。ここでは、OEMの基本情報と具体例を紹介します。
OEMには2種類ある
OEMとは「Original Equipment Manufacturing」の略であり、直訳すれば「オリジナル備品の製造」となります。
すなわち、他社ブランド、メーカーの製品を受託して製造する取り組みを指します。
OEMには、主に2種類あります。まずは、生産者側がブランド名を借りる方法です。この場合、生産者側の方からブランドに「名前を使わせてくれませんか」と提案してきます。
その内容や利益の分配条件にブランドが合意すれば、OEM受託開始となります。商品を製造しているのは生産者側であるものの、販売時にはブランドの名前が冠される流れです。ブランドの知名度を宣伝に利用するための方式だといえるでしょう。
一方、ブランド側が生産者に商品の製造を委託することもあります。
その理由は、自社製造が追いつかなかったり、コスト削減を意図していたりとさまざまです。
ときには、ブランド側が生産者に指導するなどして品質の維持が行われます。ただし、販売時にはブランドの商品として流通します。
OEMはどのように浸透していった?
かつてのOEMは決してポジティブなイメージではありませんでした。
OEMはもともと下請け製造の一種であり、自社生産ができなくなったブランドが仕方なく他社に商品を委託するケースが相次いでいました。
もしくは、自社生産に限界を感じた生産者が、売上回復を図るためにブランドの名前を使わせてもらっていたのです。しかし、徐々にOEMは積極策としての意味合いを帯びてきます。自社にはない技術力を利用するため、あえてOEMに踏み切る企業も少なくありません。
また、委託する側からすればOEMで自社ブランドの看板も守れます。
たとえば、ライセンス契約をしてしまうと商品は委託された側の名義になってしまいます。OEMなら生産者がどこであろうと、ブランドから商品を販売するという形にできるのです。
OEMの具体例
1980年代にソニーはフロッピーディスクドライブの生産をOEMで委託します。
その目的は、フロッピーディスクドライブの普及を促して需要を高めることでした。この戦略は成功し、ソニーはフロッピーディスクの売上を増加させていったのです。
このようにOEMの目的は多様化しており、かつてのような「最後の手段」というネガティブなイメージは払しょくされています。当然の手法として、OEMを受け入れているブランドや生産者も増えてきました。
OEMと何が違う?併せてODMの意味も知っておこう
ビジネスシーンではOEMに似た言葉もあるので間違わないようにしましょう。ここでは、OEMに似た「ODM」について説明していきます。
設計から生産までを受託者が担う
よくOEMと混同されるビジネス用語がODMです。ODMは「Original Design Manufacturing」の略で「オリジナルデザインでの製造」という意味です。ODMで受託者は、商品の設計と生産を行います。受託者の主導で商品を製造したうえで、最終的にはブランドの名義で販売されます。
ODMはOEMから派生した手法であり、すでに多くの企業で導入されてきました。
OEMとの違い
ブランドが生産者に商品を委託するという点で、ODMはOEMとよく似ています。
ただし、OEMではブランドが開発した商品を生産者で請け負うケースが少なくありません。その場合、生産者はあくまでも製造過程のみを引き受けます。
それに対し、ODMでは商品を企画デザインする段階から生産者が請け負います。また、OEMでは品質維持のためブランドが生産者を指導することもあるものの、ODMではそのような場面がほぼ訪れません。生産者が中心になって商品の開発を進め、世に送り出します。
ODMのメリットとデメリット
ブランドとしては、技術力がなくても自社商品を開発できるのがメリットです。デザインの段階から他社に任せられるので、自社でノウハウを蓄積しておく必要もありません。
しかも、デザインされた商品はブランド名義で発表できます。生産者からしても製造に関する全工程を請け負えるので、技術力を利益に変えるチャンスだといえます。
一方で、ブランドが生産者の仕事ぶりをコントロールしにくいのはデメリットでしょう。ODMでは生産者の主導で作業が進んでいきます。そこに外部から口をはさむのは至難の業です。
それに、開発も製造も他社任せになるため、自社の成長につながりにくいのも問題です。
生産者からしても、作り上げた製品が他社名義になってしまうことに不満が残りかねません。条件次第では、労力に見合わない契約になる可能性もあるのです。
OEMはどこで導入されている?浸透している業界の例
実際にOEMはどのような企業で導入されているのでしょうか。この段落では、OEMが広がる業界を紹介します。
自動車産業で広がるOEM
もっともOEMが拡大している業界として、自動車業界が挙げられるでしょう。たとえば、トヨタや日産など、トップクラスのメーカーは積極的にOEM供給でラインナップを増やしてきました。そのことによって、自社にはない技術を加えられたからです。そもそも自動車メーカーには得意と不得意があり、「ファミリー層を開拓できない」「商用車のノウハウがない」といった問題も起こっていました。OEMは自社の弱みを克服するための効率的な手段になっています。一方、生産者からしても巨大メーカーに商品を供給できるようになり、仕事が安定するというメリットを得られます。
コンビニエンスストアの食品
セブンイレブンでは、日清食品やキューピーにOEM生産を委託してきました。これにより、セブンイレブンは自社にはない食品製造のノウハウを利用できます。そして、日清やキューピーは全国に支店を置くコンビニエンスストアに商品を供給でき、利益を増やせます。委託者と受託者の双方にとってメリットの大きい契約だといえるでしょう。
化粧品業界でもOEMは進む
一部の大手化粧品メーカーも、OEMによって商品を供給しています。化粧品業界では、中小企業であっても優れた生産ノウハウを持っている場合が少なくありません。競合が多い世界において、大手メーカーが個性的なラインナップを増やせるのはOEMのメリットです。中小企業からしても自社の技術力を利益に変えられるため、OEMは魅力的な方式になっています。
コストがかからない!OEMに委託するメリット
ここまでOEMが広がっていったのは多くのメリットがあったからです。ここからは、OEMのメリットをまとめました。
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- 生産や開発にコストがかからない
- OEMはすでに工場と労働力を持っている企業にOEM委託をして、効率的に商品を製造できる仕組みです。
つまり、ブランド側で工場を用意する必要がありません。また、新商品開発にあたって新たに人員を募集しなくてもよくなります。
ラインにかけるコストを大幅に削減できるのは大きなメリットです。万が一、商品の売上がよくなかったときのリスクヘッジにもなりえます。
工場や労働力が無駄になることもないので、損失を最小限に抑えられるでしょう。
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- 技術力をカバーできる
- 自社ブランドにない技術力を利用できるのはOEMの魅力です。
本来なら、技術力を伸ばすためには長年の実践が不可欠です。専門的な人材を育てるのに相応の費用もかかってくるでしょう。その間の投資は、利益になる保証のない賭けだといえます。
しかし、OEMなら十分なノウハウを蓄積している他社に商品を供給してもらえます。短期間で技術がカバーされて、商品のラインナップを多様化できるのです。
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- 生産量が増える
- 商品の生産量を増やしたいブランドが、OEMに委託することもあります。
ヒット商品を販売していて、需要がどんどん増えている状態でも自社で賄うには限界があるでしょう。ほかのラインと並行しながら、特定のヒット商品の生産量を増やすのも至難の業です。
OEMなら他社の力を借りて、自社の工場で生産できる量を超える商品を出荷できます。
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- 生産や在庫の管理をしなくて済む
- 多くのブランドが、生産管理や在庫管理に手を焼かされています。
これらの業務は製造業の根幹なので決して手を抜けません。しかし、あまりにも労力を割かれていると、販売や宣伝といったほかの業務に支障をきたします。
また、管理システムを導入して運用するだけでもかなりの手間になるでしょう。そこをOEMに委託してしまえば、自社で生産や在庫の管理をする必要がなくなります。
そうやって生まれた余力を販売に注ぎ、売上をさらに増やすことも可能なのです。
収益は減ってしまう?OEMに委託するデメリット
メリットだけではなくOEMのデメリットにも目を向けましょう。この段落では、メリットを挙げていきます。
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- 自社生産よりも収益率は減る
- OEMを委託した場合、ブランドは生産による利益を失ってしまいます。完全に自社生産するよりも、製品の収益率は減ってしまうのです。
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- ライバルを育ててしまう可能性
- OEMではブランドが生産者に技術的なサポートをするケースも少なくありません。
製品のクオリティを維持し、自社のブランド力を守るためには必要な工程だといえます。しかし、そのことで生産者の技術力を高めてしまうと、将来的なライバルになってしまう恐れがあります。
しかも、ブランドの技術も吸収しているとなれば、製品の魅力を差別化するのは難しくなるでしょう。
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- 自社の能力が伸びない
- 生産者に頼り切って、自社開発を縮小してしまうのも問題です。
もちろん、そのような状態でも販売による利益は維持できます。逆に、自社の開発力や生産力はむしろ下がっていくので、企業成長につながりません。
将来的には業界内での競争力を失う恐れも出てきます。
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- 委託できる相手を探すのが困難
- 有名ブランドになるほど、OEMを委託できる相手を探すのは困難です。
自社の求める品質を生み出せて、しかもOEMを受け入れてくれる相手出ないといけません。仮に、技術力の低い相手と契約してしまえば製品の質は悪化し、評判も下がります。
そもそも、委託先を探すだけでもかなりの労力になるといえるでしょう。
このとき、チェックポイントとなるのが「生産者の得意分野」です。OEM委託したい製品と得意分野が合致していなければ、契約を結んでもスムーズに生産してもらえません。
ブランド側が納得できる品質になるまで、指導に手を取られてしまうでしょう。また、ブランド側の理念に共感してもらえるかどうかも重要です。
これらの条件が重なってようやく、意義のあるOEMになるといえます。
OEMに挑戦して自社製品を広めよう!理想のパートナーを見つけることが重要
自社生産の負担を減らしても、製品の供給量を安定させられる手法としてOEMは注目されています。
そして、OEMで重要なのは信頼できる生産者選びです。ブランドの製品をしっかり再現できる技術力がなければOEM契約を結んでも成果につながりません。
OEMを検討しているなら候補先のスキル、実績をしっかりリサーチすることが大切です。