転職活動中でさまざまな企業を見ているなかで、「公益財団法人」という名称が目に入ることもあるのではないでしょうか。
一般財団法人という名称は聞いたことがあっても、公益財団法人についてはよくわからない人は少なくありません。そこで、今回は民間企業、公務員との違いも含めて公益財団法人について詳しく解説します。
行政庁からの認可を得ている公益財団法人
平成20年12月に施行された「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」によって設立されるようになった公益財団法人。法人としての名称に「公益財団法人」をつけることが許されており、一般財団法人とは異なるものです。公益財団法人を略し、「公財」と呼ばれている場合もあります。
一般財団法人との違い
一般財団法人は、300万円以上の資産があれば登記のみで設立することが可能です。設立者は1人、そのほかに理事3名と監事1名、評議員3名が必要になります。ただ、設立者に特別な条件はなく、公益性も問われません。そのため、どのような人でも設立することができます。
一方、公益財団法人が設立できるのは、公益を目的としている23の事業のみです。たとえば、病院、芸術やスポーツなどに関わる事業、産業振興、漁業や防災通信系などが挙げられます。JFA(日本サッカー協会)も公益財団法人のひとつです。
また、公益財団法人を設立するには一般社団法人あるいは一般財団法人を設立した後、行政庁に申請して許可を得なければなりません。
公益性があるかどうかの審査がある
公益財団法人になるためには設立の登記をしたうえで、行政庁に公益認定申請を行います。それを受け、行政庁で18ある公益認定に関する基準に当てはまっているかどうかを審査し、認定しても良いかどうかの判断が下されるまで待たなければなりません。
例として、公益財団法人になるためには、公益目的事業比率が50%以上であることが必須です。行政庁の厳しい審査に無事通ればそれだけ信用できる法人なのだと示すことになり、社会的な信頼性向上も期待できます。
税金面で優遇される
公益財団法人は公益性が認められていることから、税制において優遇措置があります。さらに、みなし寄付金制度もあります。
公益財団法人を設立するまでの流れ
まず、一般社団法人あるいは一般財団法人を設立し、公益財団法人に移行するための申請書類を作成します。
「2つ以上の都道府県の区域内に事務所がある」「2つ以上の都道府県の区域内で公益目的事業を行うと定款で定めている」のいずれかの場合は内閣総理大臣、それら以外の場合は事務所がある都道府県の知事に申請をしましょう。
申請後は2つの審査に通らなければなりません。1つは行政庁が行う定款審査です。こちらは、提出された定款変更の内容が公益法人の規定に合うものであるかどうかを調べる審査です。
行政庁の審査に通った後、次に行われるのが公益等認定委員会による認定審査です。公益等認定委員会のメンバーは内閣総理大臣によって任命された7人の民間有識者で、あらかじめ決められている基準と照らし合わせ、認定の可否を行います。
認定後は公益財団法人に移行するために登記申請を行い、行政庁や旧主務官庁に登記事項証明書を添付した報告を行わなければなりません。ちなみに、認可を受けてから30日以内に移行手続きを終えていない場合は催告され、それでも手続きをしなければ認可取り消しになる可能性があるので注意が必要です。
認可される事業の種類は23!
公益財団法人の設立は公益目的事業として認められる必要があり、認可されているものは23のみです。認定法第2条によると「学術や技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業」で「不特定かつ多数の人が利益増進にできるもの」と定義されています。
こちらでは、どのような事業であれば認可されるのかを見てみましょう。
学術や芸術・科学技術、スポーツなどの振興、その支援
こちらは、特に公益性という意味で非常に当てはまるものだといえるでしょう。公益性とは、あくまでも社会全体が利益を得る状態のことです。
学術や芸術、科学技術といった知識や技術面を磨くことで日本という国の発展につながるため、これらの振興や支援を行う事業は公益財団法人としてふさわしいと判断されます。スポーツでは、日本サッカー協会や日本相撲協会なども公益財団法人です。
高齢者や障がい者、生活困窮者の支援
少子高齢化が進む日本において、高齢者や生活困窮者を支援することは少子化問題を改善し、豊かな国をつくるために必要です。
また、障がい者も、支援が足りないことで優秀な人材がその才能を活かすチャンスを逃してしまうケースも少なくありません。多くの優秀な人材を育てるためにも、この支援は公益性があると認められる事業になります。
国土や地球環境の保全・整備に関わる事業
日本の国土だけではなく、海外の開発途上国の地域を経済的に支援するような事業は、地球規模で温暖化の改善などに有効とされ、認可されている事業です。地球を守るための一環といえるものには、人種差別や偏見防止、事故や災害防止、犯罪防止、治安維持に関わる事業もあります。
国民の生活や国政に必要とされる事業
国民が生活するために必要とする物資やエネルギーの安定供給、国政の健全運営を確保するための事業も公益性があると認められます。国民生活に必要な物資やエネルギーの供給に関しては地球温暖化など環境破壊が原因となり、安定供給が将来的に難しくなる可能性がないとはいえない状況です。
また、国民生活を豊かにするためには国政も重要であるといえるでしょう。そのため、これらに関わる事業も公益財団法人の設立が認可されます。
男女平等や自由な思想につながる事業
人種差別や偏見同様に、男女が平等に参加しやすい社会、さまざまな考え方・表現、信仰の自由などは日本だけではなく、世界各国で尊重する傾向があります。
SDGs(持続可能な開発目標)は世界中で推進されており、そういった面からもこれらの事業は公益財団法人としてふさわしいと認可される事業です。
公益財団法人は民間企業!
公益財団法人で働いているのは公務員だというイメージがある人もいるかもしれません。しかし、結論を先に述べると、公益財団法人の従業員は「公務員ではない」というのが事実です。
公益財団法人はあくまで民間企業
一働く環境も公務員と似ており、公共性が高い公益財団法人ですが、こちらはあくまでも民間企業です。そのため、働いているのは団体職員であり、国や自治体などに所属している公務員とは異なる職業です。
ただ、「公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律」という法律があるので、例外として、公務員が公益財団法人の企業に派遣されるなどして働いている場合もあります。
公務員を目指す人が公益財団法人への転職をするケースも
公益財団法人における仕事内容は、一般的な企業のように利益の向上を目指すというよりは特定の業界に関わる人やその家族を支援するものが多いです。そのため、人を応援する仕事を希望して公務員を目指している人が公益財団法人に就職・転職をするというケースもあります。
働く条件については企業によって異なるので一概にはいえませんが、休日については土日が休みになっていることも多く、残業も少ないといわれています。また、国や自治体から補助を受けているため、倒産や解雇といったリスクも少ない傾向にあるようです。
強い目的意識があり、やりがいがある仕事を求めている人は、公益財団法人への転職を検討してみるのも良いかもしれません。
求人数が少なめ
公務員試験は難しく、就職をする際の倍率も高いといわれていますが、一般的な民間企業と比較すると公益財団法人も求人数が少なめです。これは、そもそも設立時に認可が必要など条件が厳しいことから公益財団法人の数が少ないこと、求人を欠員時のみ行うことが多い点などが理由になっています。
就職を希望している場合はホームページなどもこまめにチェックし、情報収集をすることが重要です。就職を希望している公益財団法人の事業内容に合った専門知識や技術があればさらに良いでしょう。
一般の民間企業との違いは営利団体か否か
公益財団法人は民間企業ではありますが、正確には「株式会社とは異なる」といえます。株式会社は出資者である株主が存在しており、株主から得た出資金を元手に会社を設立する企業です。
運営して利益が出た場合、株式会社は株主に配当金を分配しなければなりません。株を所有している数によって配当される金額も変わります。
公益財団法人は利益分配が認められていない
公益財団法人は非営利団体です。一般的には利益を追求する企業ではなく、株式会社のように利益を分配する仕組みにはなっていないため、同じ民間企業といってもその点が異なります。
公益財団法人のなかにも利益を追求する企業もありますが、そういった場合でも利益の分配が行われることはありません。あくまでも社会的な利益を得る事業であることが条件となっており、一個人の利益になる事業については認可を申請しても審査に通ること自体が不可能です。
剰余金の計上については定められていない
非営利団体である公益財団法人では剰余金の分配ができません。しかし、公益財団法人は「事業を運営するにあたって剰余金が発生することはない」というのが基本的な考え方です。そのため、あらかじめ収支のバランスを考慮したうえで予算を決め、剰余金が出ないようにしなければなりません。
ただ、場合によっては多額の利益剰余金が出ているケースもあります。そのような場合に正味資産になるのは、資産合計額から負債分を差し引いた金額のみです。剰余金については、詳細な計上根拠に関しての規定が定められていません。
ちなみに、使用用途が決められていないまま保留されている財産を「遊休財産」といい、1年以内の公益目的事業費以内に抑える必要があります。
人の支援などやりがいがある仕事を求める人にはぴったり!
公益財団法人は厳しい審査に2つ通る必要があることから、それだけ信用ができる企業であると考えられやすいです。実際、非営利団体であり、利益追求より地域や国、人などの支援をする事業が多いため、やりがいもあるといえるでしょう。
民間企業といっても、仕事内容に関しては比較的公務員に似ている部分もあるといわれており、公務員のような仕事を求めている人が公益財団法人の企業に就職・転職するケースもあります。