転職活動の際には、履歴書や職務経歴書などの応募書類、面接への対策を十分に行った上で臨むはずです。
加えて「リファレンスチェック」への対策も求められてきています。対策が不十分であれば転職に失敗してしまうかもしれません。
本記事では、転職希望者にとって無視できなくなってきているリファレンスチェックについて解説していきます。また、内定取り消しのリスクや、事前に押さえておくべきポイントも併せてみていきます。
リファレンスチェックの概要と企業の目的
まずは、概要を確認しておきましょう。リファレンス(Reference)は、参照や照合などを意味する英単語であり、「経歴照会」と訳すことができます。
企業が主に中途採用する際に、候補者の経歴や勤務状況などを前職の、あるいは在籍中の企業に問い合わせるなどし確認する作業を指す言葉です。アメリカなどではよく行われていますが、日本でも外資系企業を中心に実施されるようになってきています。
この作業は内定を出す前、最終選考に残った候補者に対して実施するケースが多くみられるものの、内定後に最終確認の意味合いで行われることもあります。企業や候補者の人数、選考内容によって実施のタイミングはまちまちです。
企業が経歴照会を行う目的
履歴書や職務経歴書の多くは、採用候補者が自ら作成します。また、面接での受け答えも候補者が行うため、その人の経歴や実際の能力等を測ることは企業の人事担当者にとって簡単なことではありません。
経歴照会を行う目的は、こうした応募書類や面接では把握しきれない候補者の経歴や能力、実績、人柄までをも確認することにあります。
結果、実績や能力があることが確認できたとしても、コミュニケーション能力が低いと感じれば、チームでプロジェクトを遂行していく企業にとっては採用をためらってしまうでしょう。
経歴等の詳細を把握することで、入社後、企業が欲していた人材と候補者の能力等のミスマッチを避けることができるのです。
最終選考前に行うケースでは、選考の効率をアップさせる目的もあります。事前に候補者の情報を得ることができれば、最終面接での質問を絞り込むことができるでしょう。
無駄な問答を減らすことで面接そのものの効率化へとつながり、企業側としては候補者をより深く知ることもできます。また、入社後すぐに配属先やチーム、任せられる業務内容などを決定できるメリットも企業側にはあります。
中途採用として即座に貢献してもらうことが可能になるなど、新たな人材の確保を試みる企業にとって重要な役割を果たしているのです。
経歴照会の方法は2つ
経歴照会には、まず、採用候補者が情報提供者(リファレンス先や推薦者、依頼者と呼ばれることもある)を紹介するパターンがあります。
この場合、企業へと応募した本人が、前職でともに働いていた上司や同僚の中から数人選出し、情報提供者として連絡先とともに応募先企業へと伝えます。
その後は、企業側が日程調整などを行い実際にコンタクトをとり情報収集等を行うため、候補者は特に何もする必要はありません。
他にも、応募先企業が自ら情報提供者を探し、独自でコンタクトをとり経歴照会や情報収集を行うパターンがあります。
この場合も、事前に企業側から候補者に対して経歴照会を実施する旨が伝えられるので、特に問題がなければ承諾しましょう。
あとは企業側が情報提供者から候補者の経歴や能力、人柄などの情報を聞き出す作業を行います。候補者本人は承諾以外、特にすることはありません。
転職の際にリファレンスチェックを受けるメリット
転職の際に受けるリファレンスチェックは、企業側だけでなく求職者側にもメリットをもたらすものです。
リファレンスチェックを受けるメリットとして、まず自分自身を深く理解してもらえることが挙げられます。
転職活動では書類や面接を通して企業に自分の人となりを知ってもらいますが、伝えられる範囲には限りがあります。
リファレンスチェックによって自分自身について第三者に説明してもらうことで、人材としての特性を企業により深く理解してもらえ、ミスマッチを未然に防ぐ効果が期待できるでしょう。
次に、転職先で働きやすくなることもリファレンスチェックを受けるメリットの一つです。
リファレンスチェックで自分自身について深く理解してもらえば、採用された後も等身大の扱いを受けられ、やりにくさを感じずに働けるでしょう。
最後のメリットは、第三者による説明で印象がよくなる場合もあることです。
上司や同僚に客観的で説得力のある説明をしてもらうことで、企業に好印象を与えて採用される可能性が高まるかもしれません。
リファレンスチェックを拒否することはできる?
拒否することは可能
採用候補者は、企業から経歴照会の承諾を求められた際、拒否することができます。
企業は、候補者に対して事前に説明した上で承諾を得る必要があります。つまり、経歴照会を受けることは候補者に課せられた義務ではなく、拒否する権利も認められているのです。
拒否した場合、応募先企業が候補者の意思を無視し、独断で候補者の勤め先にコンタクトをとり情報収集などすることはありません。
経歴照会を拒否するデメリット
拒否することは可能ですが、デメリットが生じるため、安易な拒否は避けるべきでしょう。
経歴照会の結果は、企業にとって重要な選考要素となります。もし候補者自身が頑なに断れば、履歴書や職務経歴書に虚偽の記載があるのではないか、面接での話に嘘が混ざっているのではないかと企業に勘ぐられてしまう可能性があります。
実際に企業にネガティブなイメージを持たれてしまうと、最終選考に残れない、残ったとしても内定をもらうことができずに終わってしまうなどのリスクが考えられるでしょう。
経歴照会の拒否はデメリットやリスクが非常に大きいため、特段の理由がない限りは承諾することをおすすめします。もしどうしても受けられない場合には、その理由を企業側に説明しなければいけません。
在職中の企業に内緒で新たな働き先を探すこと自体は決して珍しくはないでしょう。あるいは、在職中の企業側に強い引き留めを受けている場合にも、候補者にとって不利な情報提供をされてしまう可能性が考えられます。
そうした事情があるのであれば、企業に丁寧に説明をした上で断る必要があります。
採用候補者以外が拒否するケース
採用候補者自身が承諾したとしても、例えば、以前働いていた企業や在籍中の企業が経歴照会を拒否するケースがあります。
リファレンスチェックというものを理解していない企業であれば、個人情報の提供に抵抗を感じ、応じない判断をすることも考えられるでしょう。
これは候補者自身の問題とはなりませんが、応募先企業による情報収集がスムーズに行われるよう十分に働きかけておく必要はあります。
応募先企業から経歴照会についての説明を受け承諾した上で、これまで勤めてきた企業に対し、何らかの問い合わせがあるかもしれないことを丁寧に伝え、概要等も併せて説明しておきましょう。
リファレンスチェックで経歴や能力はすべてバレる?
バレる可能性の高い経歴詐称
出身校や勤めていた企業名、雇用形態や在籍期間、従事していた業務、実績などは、これまでの経歴を丁寧に調べることで応募先の企業に確実に把握されてしまいます。
もし応募書類や面接での受け答えに虚偽や詐称があれば、間違いなくバレてしまうでしょう。経歴照会は、その名の通り、経歴を確認するために行われるものです。
人柄やコミュニケーション能力なども重要なチェック項目とはなりますが、経歴は基本的な確認事項となるため、偽りの経歴を押し通すことは、ほぼ不可能です。
実際の経歴を知られたくないからと、これまで勤めていた企業の上司や同僚に嘘の証言をしてもらうよう働きかけることも避けましょう。
応募先企業による経歴照会や情報収集は複数人に対して行われることが多く、収集した情報等に違和感があれば、企業は候補者に対して不信感を持ちかねません。
経歴詐称はバレてしまうものとして、応募書類の作成や面接へと臨むことが求められます。
バレてしまうさまざまなこと
経歴の他に、バレてしまいかねないことにも触れておきましょう。
例えば、人柄やコミュニケーション能力、社交性など人物像についても、応募先企業に伝わってしまう可能性があります。
面接において優秀で温和、あるいは精力的でポジティブなイメージを与えることに成功したとしても、ともに働いた経験を持つ上司や同僚などの話から、感情的な面やネガティブな面がバレてしまうかもしれません。
採否にどれほど響くのかは程度や企業の選考基準により異なるものの、あらゆる情報が企業へと伝わってしまうことを前提として活動を進めていく必要があります。
経歴照会の結果で内定取り消しはある?
内定後に経歴照会が行われた場合、その内容によって内定が取り消されてしまう可能性は十分に考えられるでしょう。
そもそも内定の時点で労働契約は成立しているため、客観的にみて合理的な理由がなければ企業は内定を取り消すことができません。しかし、経歴の詐称や、応募書類や面接での受け答えに虚偽の情報があれば、それは内定取り消しの合理的な理由となり得ます。
当然ながら、詐称や虚偽の内容・程度により、企業の判断は変わってくるでしょう。あらゆる可能性を考慮し、応募書類や面接では、虚偽や事実とはそぐわない過剰なアピールは避けることをおすすめします。
リファレンスチェックの質問内容と押さえておくべきポイント
企業が経歴照会の依頼先にすることの多い質問内容をまとめ、それぞれにどのように対応すべきか、ポイントを押さえつつ解説します。
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- 勤務状況に関する質問
- 「在籍期間や役職について教えてください」、「従事していた職務内容を教えてください」といった勤務状況に関する質問は必ずといってよいほどされます。
応募書類や面接での受け答えと齟齬がなければ問題ありません。欠勤や遅刻に関することや、給与など待遇に関することも質問されるでしょう。特に面接で待遇の希望を提示している場合には、これらの質問に対する回答が考慮されることがあります。
すでに退職している場合には、退職理由について聞かれることもあるでしょう。こちらも、面接での回答と食い違いがなければ、特に問題とはなりません。
勤務状況は客観的な事実であるため、採用候補者が詐称等していないか、即座に判断可能な項目でもあります。応募先企業の受ける印象を悪くしないよう、応募書類や面接では、すべて正しい情報の提供を心がけることが最大のポイントです。
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- 職務能力に関する質問
- 「どのような実績や成果を挙げていましたか」、「積極的な提案や問題解決能力はみられましたか」、「職務における長所と短所を教えてください」なども定番の質問です。
中途採用の場合、育成よりも即戦力として考える企業が多いため、職務能力に関する質問も欠かすことができないでしょう。
これらの質問も、応募書類や面接での内容と整合性があれば問題とはなりません。ただ、勤務状況に関する質問と比べ、少し抽象的な回答をせざるを得ない場合も出てきます。
職務能力をアピールしたいのであれば、自分のことを評価してくれていた上司や先輩などを情報提供者として応募先企業に紹介することで、ある程度の対策をとることができるでしょう。
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- 勤務態度や人柄に関する質問
- より抽象的な質問および回答となるのが、この勤務態度や人柄に関する質問です。
「コミュニケーションを活発に、また、良好に行えていましたか」、「人によって態度を変えたり、感情的になったりすることはありましたか」、「リーダーシップを発揮していましたか」、「機会があれば、また一緒に働きたいと思いますか」などを尋ねる企業が多いようです。
こうした質問は、回答次第でだいぶ印象が変わります。応募先企業によい印象を持ってもらうためにも、できる限り関係が良好な人物や、自分の転職を応援してくれている上司などを情報提供者として紹介しましょう。
転職時にリファレンスチェックを受けるときのポイント
リファレンスチェックは転職の可否を左右する重要なポイントなので、適切な受け方を知っておく必要があります。
まず、リファレンス先には適切な人を選ぶようにしてください。
リファレンスチェックには自分を推薦してもらう意味合いもあるため、自分の長所を理解してくれている人をリファレンス先に選ぶことが大切です。
長年一緒に働いて信頼関係を構築してきた上司や同僚に頼み、企業に好印象を与えるとよいでしょう。
役員などに依頼するのも悪くはありませんが、あまり接点がなく、自分の仕事ぶりを知らない場合、かえって悪印象を与える恐れがあるので注意が必要です。
次に、リファレンス先には丁寧に依頼し、必ず承諾を得ておきましょう。リファレンスチェックに貴重な時間を割いてもらうことに、しっかりと感謝を示してください。
最後に、事前に打ち合わせをしておくことも大切です。応募した企業の情報を伝え、リファレンスチェックでどのようなことを話してほしいのか、丁寧に説明しておきましょう。
リファレンスチェックを理解し準備を整えることが転職成功のカギ
転職を希望する人に対してしばしば行われる企業のリファレンスチェック。こうした経歴照会のある企業へと応募してから、これまで働いていた企業でのイメージアップや円満退職を目指そうと考えても間に合いません。
普段から職場の人との関係を良好に保ち、かつ、応募書類や面接などで詐称や虚偽の情報を伝えないことが、リファレンスチェックを乗り越え転職を成功させるポイントとなります。
新たな職場を探すことを視野に入れた段階で、応募先企業からの経歴照会があるものと想定して動いておきましょう。承諾をためらったり拒否したりすることがないよう、情報提供者の選定も含め、入念な準備を整えた上で臨むことが求められます。