給与を得ている会社員は、勤務先から源泉徴収票を受け取ります。源泉徴収票は1年間の総収入や所得税額などが記載された大切な書類です。転職する場合は新しい勤務先に提出する必要があるため、退職した際は必ず受け取りましょう。ここでは、源泉徴収票の概要や必要になるタイミング、退職時はどうするべきかなどについて解説します。
源泉徴収票とは具体的にどのようなもの?
源泉徴収票とは、会社から1年間に受け取った給料の総額や納めた所得税の金額が記載されている重要な書類です。大切なものなので、受け取ったら一定期間はきちんと保管したほうがよいでしょう。
ここでは、源泉徴収の概要や特に大切な4つの項目、源泉徴収票の種類などについて解説します。
そもそも源泉徴収とは
源泉徴収とは、会社が従業員の毎月の給料から所得税の見込み額を差し引き、従業員に代わって国に納める制度のことです。
その年に納付すべき所得税の正確な金額は、12月に賞与や給与が支払われたあとに確定します。そのため、毎月給料から天引きされている所得税は、正確な金額ではありません。
会社が従業員のひと月の給料の額から年収を想定し、概算で所得税額を算出して天引きしています。そこで、1年間の総収入額が確定した12月に行われるのが年末調整です。
正しい所得税額を算出し、実際に納付するべき金額より多く引いていた場合は還付し、不足している場合は追加徴収を行います。
源泉徴収票で特に大切なポイント4つ
源泉徴収票には多くの項目が記載されています。このなかでも特に大切なポイントが、「支払金額」「給与所得控除後の金額」「所得控除後の額の合計金額」「源泉徴収税額」の4つです。
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- 支払金額
- 支払金額とは、会社が従業員に支払った総額です。税金を徴収する前の給与や賞与、各種手当、インセンティブなどが含まれます。一定金額以下の通勤手当や出張費といった非課税の手当は含まれません。なお、「年収」というときは源泉徴収票に記載された支払金額を指すことが一般的です。
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- 給与所得控除後
- 給与所得控除後の金額とは、支払金額から「給与所得控除」を差し引いた金額を指します。給与所得控除とは、税額を計算する際に、会社員が支払金額から差し引くことを認められた金額です。支払金額から給与所得控除を差し引くことで課税対象となる金額が小さくなり、会社員の税負担が少なくなるメリットがあります。
給与所得控除の額は国税庁が定めており、個々の収入金額によってさまざまです。たとえば、支払金額が162万5000円以下だった場合は、控除額は55万円と決まっています。
支払金額が162万5000円を超えて180万円以下だった場合は、控除額は「収入金額×40%-10万円」で計算した金額です。
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- 所得控除後の額の合計額
- 所得控除後の額の合計額とは、給与所得控除以外にも差し引ける所得控除をすべて合算した金額を指します。支払金額からは、給与所得控除以外にもさまざまな金額を差し引くことが可能です。基礎控除や社会保険料控除、生命保険料控除などがあり、人によって適用可能な控除は異なります。
たとえば、基礎控除は所得税を納めているすべての人に適用されますが、生命保険料控除は実際に民間の生命保険会社に保険料を支払っている人が対象です。
控除を受ける場合は、年末調整の前に控除申告書などを勤務先に提出しなければなりません。
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- 源泉徴収税額
- 源泉徴収税額は、納付された所得税の合計金額です。支払金額から給与所得控除や所得控除の合計金額を引いたあと、規定の所得税率をかけて算出します。所得税率は所得額によって異なり、国税庁が定めています。
源泉徴収票の種類
源泉徴収票には2種類あります。1つは「給与所得の源泉徴収票」で、会社から1年間に受け取った給与の総額や所得税の金額が記載されているものです。
もう1つが「退職所得の源泉徴収票」です。これは、退職にあたって企業から退職手当が支給された場合に発行されるもので、退職手当や発生する所得税の金額が書かれています。退職手当がない場合は発行されません。
源泉徴収票が必要になるときとは?
給与所得の源泉徴収票が必要になるタイミングは、主に「転職するとき」「確定申告するとき」「収入を証明する必要があるとき」の3つです。
退職して再就職した場合、転職先の企業には給与所得の源泉徴収票を提出する必要があります。退職所得の源泉徴収票は提出不要です。
これは、転職先の企業では、年末調整の際に前の会社の支払金額や源泉徴収票額を確認する必要があるためです。これらの金額が分からなければ、転職先企業は正確な所得税額を算出することができません。
ただし、年末ぎりぎりに再就職して転職先企業の年末調整に間に合わないときや、退職したあと年内には再就職せず翌年になってから再就職することもあるでしょう。年内調整が受けられなかったケースでは、自分で確定申告をする必要があります。
確定申告とは、1月1日~12月31日に所得があった人が、税務署に「私にはこれだけの所得があり、納める所得税はこれだけです」と申告して納税する制度です。
基本的に、毎年2月16日~3月15日に行います。会社員は勤務先企業が源泉徴収しているため、基本的に自分で確定申告をする必要はありません。ただし、会社員でも以下のようなケースでは確定申告が必要です。
・年収が2000万円を超える
・2カ所以上から給与を得ている
・副業による収入が年間で20万円を超える
・不動産を売却して利益があった
・退職時に退職手当を受け取ったが「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない
(※提出している場合は確定申告不要)
・保険の満期保険金や解約返戻金として一定額以上を受け取った
・退職後、再就職先で年末調整が受けられなかった
・年内に再就職しなかった
また、住宅ローン控除や医療費控除、寄付金控除などの適用条件を満たす場合は、確定申告すると税金が還付される可能性があります。
クレジットカードを申し込むときや住宅ローンを組むときなど収入を証明する必要がある場合に、源泉徴収票を提出する必要があります。
ただし、このケースでは市町村役場で「課税証明書」や「所得証明書」を発行してもらって提出しても構いません。
源泉徴収票が発行されるタイミング
源泉徴収票をわたされるタイミングは、主に年末調整後と退職時です。しかし、それ以外のタイミングでも発行されることがあります。
年末調整のあと
年末調整は12月の給与が確定したあとに行われます。そのため、12月の給与明細と一緒に渡されることが多いでしょう。源泉徴収票は正社員だけでなく、アルバイトやパート、契約社員にも渡されます。
退職したあと
12月より前に退職した場合は、1月1日~退職日までの支払金額に基づいて計算された源泉徴収票が発行されます。
最後の月の給与が確定してから1カ月ほどで発行され、自宅などに送付されることが一般的です。退職した場合は、給与所得の源泉徴収票のほか、退職所得の源泉徴収票も渡されます。
従業員が必要になったとき・紛失したとき
住宅ローンを組むときや子どもを保育園に入れるときなど、必要になったときに申請すれば再発行してもらうことも可能です。うっかり失くした場合も、申請すれば発行してもらえます。
基本的にすぐに発行してもらえるでしょう。ただし、経理の繁忙期などは発効までに時間がかかる可能性があります。
退職後に発行してもらえない場合の対処法
退職した場合、通常であれば退職日から1カ月以内に発行されることがほとんどです。なかなかもらえない場合は、前職の会社に問い合わせてみましょう。
それでも対応してもらえないときは税務署に相談に行き、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出するのがおすすめです。税務署から前職の会社に指導が入るので、発行してもらえるでしょう。
年度途中で退職したら確定申告や年末調整はどうすべき?
年度の途中で退職した場合は「転職先の企業で年末調整してもらう」「自分で確定申告をする」のいずれかの対処が必要です。ケース別に、どちらの対処をすべきかについて説明します。
●年度途中で退職し年内に転職した場合
退職後、年内に再就職した場合は、前職の企業から源泉徴収票を受け取って転職先に提出しましょう。転職先の企業が年末調整を行います。
もし、何度か転職を繰り返して1年間に複数の会社で給料を得ていた場合は、すべての会社から源泉徴収票を受け取って提出しなければいけません。
●年末調整が行われてから退職した場合
年末調整が済んでから退職した場合は、転職先企業に前職の源泉徴収票を提出する必要はありません。すでに所得税の清算が終わっており、新たに年末調整をする必要がないためです。
ただし、年末調整が終わってから会社を辞めてすぐに再就職し、転職先企業から給与を受け取った場合は、再度の年末調整が必要です。
前職の会社からもらった源泉徴収票を転職先企業に提出して、年末調整してもらいましょう。転職先の企業で12月に給料を受け取ることが分かっている場合は、間に合うタイミングであっても前職の会社で年末調整を受けないほうが無難です。
●年内は転職しなかった場合
退職したあと年内に転職しなかった場合は、年末調整を受けていないため、自分で確定申告を行わなければなりません。
年内に転職しなかった場合は前職の会社で所得税を納め過ぎている可能性が高く、確定申告すれば税金の還付が受けられる可能性があります。この場合の確定申告は、翌年以降5年以内であればいつでも可能です。
源泉徴収について理解し転職時に困らないようにしよう
源泉徴収とは、企業が従業員の給与から毎月所得税の見込み額を天引きし、代わりに国に納める制度のことです。
年末に一年間の所得額が決定したら、年末調整を行い、正確な所得税額を計算して毎月の給与から払い過ぎた場合は還付、不足している場合は追加徴収します。
転職すると前職の源泉徴収票の提出を求められるため、うっかりなくしたりしないように注意しましょう。転職先の企業が源泉徴収票の提出を求めるのは、前職の支払金額や源泉徴収額も考慮して年末調整する必要があるためです。
タイミングが遅く転職先企業で年末調整が受けられなかったときや、退職して年内に再就職しなかったときなどは、自分で確定申告する必要があります。転職後に慌てないよう、源泉徴収や年末調整、確定申告について正しく理解しておきましょう。