「お世話になっております」という表現は、電話やメールなど多くのビジネスシーンで見聞きします。しかしながら、この「お世話になっております」を使うのに適当でない相手や場面があることをご存じでしょうか。
この記事では「お世話になっております」という言い回しについて、正しい敬語かどうか、そして実際の場面での使い方や例文について解説します。
「お世話になっております」とはそもそもどんな意味?
「お世話になっております」という表現は、ビジネスや公的な場面での相手への敬意を表す日本語の敬語です。文字通りに解釈すると、相手に対して自分が何らかのお世話を受けていることを示す際に用いられます。
そこから転じて、ビジネスメールなどで冒頭の挨拶や次の話につなげるためのクッションのような役割で使用される場面も多いです。また「お世話になっております」という表現は、基本的には一般的には上司や取引先など、目上の人に対して用いられます。
そもそも「お世話」とは、手のかかることをすることや面倒を見てあげるという意味です。そのため、そのように手をかけてもらっていることを相手に再確認し、相手に感謝の気持ちや敬意を示すという意味が込められています。
また、それによって自分自身が相手のお世話になっていることを認め、謙虚な姿勢を示す役割もあるのです。このような気軽に感謝の意を伝えられる言葉であるため、さまざまなシーンで利用されています。
また、これに似た表現で「お世話になります」という言葉も見聞きしたことがあるのではないでしょうか。両者の違いは、「既にお世話になっている」か「これからお世話になる」かという時間軸の差にあります。
そのため、初対面の相手に対してはこれからお世話いただくという意図から「お世話になります」を、既に付き合いのある相手に対しては「お世話になっております」を使用することが多いです。
しかし、個人的には初対面であっても、会社など組織単位での付き合いが既にある場合は「お世話になっております」を使用しても不自然ではありません。
「お世話になっております」は正しい敬語?
「お世話になっております」は相手に感謝を伝えつつ挨拶のように使える言葉であるため、多用されがちです。しかしこの表現が本当に正しい敬語であるかどうかについて気になる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、「お世話になっております」が敬語として正しいのかどうかを解説していきます。
結論から言うと、「お世話になっております」は正しい表現です。
言葉を分解すると「お世話」とは世話の尊敬語であるため、相手がしてくれる世話を敬う形になっています。また「お~になる」という表現は尊敬語の意味となり相手がお世話をすることを敬った表現です。
さらに「おり」とは「いる」の丁寧語で、その後にも「ます」という丁寧語が付け加えられていることから、文末まで丁寧な言い回しで終えており、全体的に誤りのない正しく相手を敬った表現であるといえます。
ただし「お世話になっております」は電話やメールなどで慣例的に用いられている表現であるため、そこまで文法的な正しさを考える必要がないと捉えることもできます。とくにビジネスシーンでは見慣れている人も多いため、「正しくない敬語」だと感じる人は少ないでしょう。
それよりも、挨拶を「お世話になっております」だけで済ませずに、バリエーションを用意しておいて場面に応じて使い分けることで相手への感謝を的確に伝えることが大切です。
「お世話になっております」を使う際のポイントや注意点
「お世話になっております」は正しく相手を尊敬する丁寧な言い回しです。しかしその一方で、この表現が過剰な敬意を表しているとの批判もあります。ここでは、その理由や使う際のポイント・注意点について見ていきましょう。
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- 使用する相手を選ぶ
- 「お世話になっております」が良くないとされる理由として、この表現が多くの場合はビジネスの場面でのみ用いられるため、相手が仕事以外の場面で出会った場合や、プライベートな関係の場合には違和感があることが挙げられます。
すなわち、使う相手を見極める必要があるということです。例えば相手が自分よりも上位の立場にない場合や相手が若い場合、社内の人などに対する言葉としては、逆に相手に対して過剰な敬意を示すことになるため、不自然な印象を与えることがあります。
ただし、社内の人であっても普段からお世話になっている人であれば使用しても問題はないでしょう。
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- 社交辞令のようにならないよう注意する
- この表現を用いることが仕事上の礼儀作法としてのみ認識され、実際の相手に対する感謝や敬意が感じられない場合があるとの指摘があることにも注意しましょう。
すなわち、中身のない社交辞令のように捉えられてしまい、逆に無礼なのではないかと考えられてしまう可能性があるということです。
とくに何気なく挨拶代わりに使用している場合は、相手がこの言葉をどのように受け止めているかよく考えて使用する必要があるでしょう。
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- 「お世話様です」とは異なる表現であることを理解する
- 似た表現として「お世話様です」という言葉がありますが、こちらは相手への敬意を表す文章としては不適当であることにも注意が必要です。
「お世話様です」は「ご苦労さまです」「お疲れさまです」などと同じ意味を持つため、基本的には立場が上の人から下の人に対するねぎらいの言葉として使われます。
そのため「お世話になっております」を使用することの多い取引先や上司など目上の人に対して使うべき表現ではないのです。
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- 「お世話になっております」のポイント・注意点まとめ
- 以上をまとめると、この表現は過剰な敬意を示す場合があるため、相手に違和感を与えることに注意して使う必要があります。相手との関係性や場面に合わせた使い方を意識することが大切です。
最近では、ビジネスや公的な場面でも、より自然な言い回しや表現を求める傾向があります。そのため、敬意を示す表現として「お世話になっております」を用いることが必ずしも適切でない場合もあるのです。
相手との関係が深く、親しい場合には、敬意を示しながらもより自然な表現を使うことも視野に入れましょう。
「お世話になっております」の使い方・例文を確認
それでは、実際に「お世話になっております」はどのような場面で使用することができるのでしょうか。ここからは、「お世話になっております」の使い方や例文を見ていきましょう。
「お世話になっております」は多くの場合、相手への挨拶のあとなど電話やメールにおいて最初のほうで使用されます。例えば「お世話になっております。先日は、お忙しいなか、ご対応いただきありがとうございました」など、相手がこちらに対して何かしてくれた際にその感謝を伝える言葉として使用できます。
また「お世話になっております。次回の打ち合わせの日程について、ご連絡いただけますでしょうか。」など、相手にこれから何かをお願いする場合にも、依頼内容の前に置くことで言葉を和らげることが可能です。
より丁寧なフレーズにしたい場合は「いつもお世話になっております」という表現もよく使用されます。「いつも」という言葉が入ることで、普段から相手によくしてもらっており、それに対する感謝をしていると表すことができるのです。
この場合「今後ともよろしくお願いいたします」などこれからの関係について触れる言葉を末尾に加えることで、相手との過去・未来にわたる長い期間で良い関係を築きたいという、相手への信頼を伝えることもできます。
「いつもお世話になっております」よりもさらに丁寧さを付け加えたい場合には「平素より大変お世話になっております」という表現も良いでしょう。「平素」とは、いつも・普段・つねひごろといった意味を持つ言葉です。少し硬い表現をすることで相手への敬意を含めることができます。
また「大変」という「お世話になる」を強調する語を入れることによって、相手のお世話が自分に対して大きな良い影響を与えているという意味合いも込められている表現です。
「お世話になっております」の類語・言い換え表現
「お世話になっております」というフレーズは、相手に対して敬意を表する一方で、前述したように多用することで中身のない言葉になってしまう場合もあります。
そこで言い換え表現や類語を知っておくことで、単調になりがちなビジネスのコミュニケーションにおいても、よりフレッシュな印象を与えることが可能です。以下に「お世話になっております」の類語・言い換え表現を紹介します。
お忙しいところをご対応いただきありがとうございます。
「お世話になっております」は、相手が自分にしてくれた対応を感謝する表現でもあることから「ご対応いただきありがとうございます」などと言い換えることができます。
また「お忙しいところを」という表現は、相手が多忙であることを意識した敬意を表現するフレーズです。これらを組み合わせることで、相手の対応に感謝の気持ちを示すとともに、謙虚な印象を与えることができます。
いつもお力添えいただきありがとうございます。
「お世話」は相手から受けた良い対応を意味するため、「お力添え」と言い換えることも可能です。この場合「いつもお力添えいただきありがとうございます」とすると丁寧な印象になります。
前述した「ご対応いただきありがとうございます」と同じく「ありがとうございます」という直接的な感謝の言葉が含まれているため、相手により深い感謝の念を伝えることができるでしょう。
その節は大変お世話になりました。
「その節は」という言葉を用いることで、以前よりお世話になっていることを強調した表現です。過去にお世話になったことを改めて感謝することで新しい会話へのきっかけにできるため、とくに久しぶりに連絡をする相手に対してよく使われます。
大変ご無沙汰しております。
「ご無沙汰」とは、連絡を意味する「沙汰」が無かったということから「長い間連絡をとっていなかった」ことを意味する言葉です。そのため「お世話になっております」よりも久しぶりの連絡となる相手に対する挨拶としてよく使用されます。
「お世話になっております」よりも相手に感謝をする意味合いは薄くなりますが、ビジネスシーンでもよく使われる丁寧な言い回しです。